2008.10.15
ついこの前まで、暑いと言っちゃ冷たいものを胃袋に流し込んでいたのに、ふと気が付けば、季節はいつの間にか秋たけなわの十月。 毎年のことだけど、ワタシの自室は、夏の間はそりゃもう、うんざりするくらい暑くて、しばらくはパソコンの電源も入れられないほどだったんですが、こうして涼しくなってキーボードを叩いていると、ディスプレーとにらめっこするのも、随分久しぶりという気がします。
今年の夏はいかがでしたか。 ご家族で旅行されて、写真やビデオをたくさん撮った方も多いでしょう。
カノジョやカレシと楽しい思い出を作った方もいっぱいいると思います。
実は、ワタシの場合、夏というと、ちょっと衝撃的な思い出があるんですよ。
もう二十年以上も前の話です。
当時、大学を出たばかりのワタシは、都内のとある歯科診療所で働いてました。
そこには、同窓のB先生という先輩がいて、食事やお酒などもそのつどおごって貰ってました。
で、この先輩なんですが、趣味が車なんですよ。大の車好き。それもレアな車が好きなんですね。トヨタとかニッサンとか、あるは外車で言えばフォードとかナントカカントカとか(ゴメンなさい、あんまり車には詳しくないもので)、とにかく、そういう知られた名前の車には乗らず、一風変わったのに乗るんです。
当時乗ってたのが、確かイギリスのって聞いた覚えがあります。もちろん、車名はワタシがはじめて聞く知らないものだったので、とうに忘れてしまいましたが、多分中古で買ったんでしょう、素人目にも一昔前の古風な型であるのが分かりました。 でも、これがオープンカーなんですよ。 ちょっと小型のツーシーター。いつもはカノジョでも乗っける助手席に、ワタシが初めて乗ったのは、ゴールデンウィーク明けの、初夏と言っていい暑い日でしたが、B先生はワタシを乗せるに先立って変なことを言いました。 「オマエ、イーカ、絶対暑そうな顔すんなよ」 「え?」 「カッコワリーからよお」 「……?」 その意味は走り始めてすぐわかりました。
暑いんですよ。
オープンカーってやつは、やたら暑い。
風を切って走るから涼しそうだけど、実はそうじゃない。
たしかに風は切るんです。だけど、風を切るのは、ボンネットとフロントガラスで、その真後ろにいる人間には、風な
んてソヨとも当たらない。 座ってるシート部分は、まったくの無風状態というか真空状態。
そこに初夏のぎらつく太陽が照りつけるものだから、オデコとか鼻の頭にはすぐに汗が滲みます。 「あのう、ハンカチで汗拭いてもイイスか」 「暑いか」 「ええ」 「バーロ、ここは南極だと自己暗示せえ。見てる連中は涼しくていいな、と思ってんだからよ、裏切っちゃシツレーだろが」 てな具合で、ちょっと忍耐を強いられる車だったんですが、それでも、勤め先の診療所が、ちょっと交通の便の悪いとこにあったので、ちょくちょくワタシ乗せて貰ってました。
でも、そうするうちに、気が付いたことがあります。
ガソリンを給油するときに、しょっちゅうオイルも一緒に入れるんですよ。 「この前も、オイル入れましたよねえ」 ワタシが言うと、 「外国車は、ガソリンもオイルも食うんだよ」 そう平然と言うB先生に、そんなもんかな、ワタシも思ってました。
ところが… あれは、お盆休み明けの、夏も終わりに差し掛かったころだと思います。 「なんか、臭くありませんか」 例によって、その車の助手席に乗ってたワタシは、少し前から機械の焼けるような臭いが気になっていました。 「オイルたんねえかな」 B先生も気が付いてたらしく、首を傾げてます。
その日は休診日。前の晩に飲んで、B先生の家に泊まり一緒に外出したのでした。 交差点で、赤信号で止まったときでした。 黒い煙が、すうっと一筋ボンネットから立ち昇って、見る間にモクモクとまとまった煙になりました。 「ん?」 二人で顔を見合わせます。 と、ププー!
後ろのトラックから、けたたましいクラクション。
そして、次にはそのトラックから運転手のオジサンが降りてきて、 「あんたら、何やってんだ。早く、降りろ」 そのときになって、我々も漸く事態がフツーでないことを悟りました。 「オイ、後ろから押してくれ」 B先生は、交通の邪魔になると判断したんでしょう、エンジンを切って車を脇へ寄せようとしましたが、 「そうじゃねえ、危ねえから車から離れろって言ってんだ」 運転手のオジサンが怒鳴ります。 その剣幕に気圧されて、車から二三メートル離れたときでした。 ボッとボンネットから火が出て―。
後は、警察が飛んでくるわ、消防車は駆けつけるわ、周りには大勢の野次馬サンたちの人垣ができるわ、で本当に一騒ぎでした。 そーゆーわけで、皆さん、もし、オイルの消費の大きい車にお乗りでしたら、是非一度早めに点検に出してみてください。 人間の病気もそうだけど、ホント、何事も早期発見、早期治療ですから。
2008.6.22
さて、北京オリンピックまでもうあとわずかとあって、テレビ番組も、代表選手の特集を組んだり、CMにも選手が顔を出したりして、オリンピックモードというか、随分と視聴者の関心に訴える画像が増えてますけど、でも、今度のオリンピックと言えば、レーザーレーサーでしょう。 言わずと知れた、"世界記録水着"です。 スポーツ方面には疎いウチのカミサンでさえ、「もちろん知ってるわよ」と言下に一言。 大抵なら、「レーザーレーサー? 何よそれ」と興味も示さないし、多少興味を持ったところで、レーザーラモンの親戚か、俳優の黒田アーサーが芸名変更したか、くらいにしか考えないんだけど、今回ばかりは大正解。
で、そのレーザーレーサー。売ってるんですね。選手専用か思ったら、一般人でも手に入るらしい。 そんなわけで、新しい物好きのワタシとしては、放っとけず、早速インターネット。 しっかし― 予約販売の上に、値段がヤッタラ高い。普通の水着が5、6着は楽に買えちゃう。
「アータ、そんなもん、注文する気じゃないでしょうね」 カミサンが怪訝な顔でパソコンの画面を覗きます。 「5秒前までは、その気だったんだけどね」 「アータがそんなもん履いたってダメよ。身の程知らずねえ」 ワタシだって、十分分かってます。レーザーレーサー履いて泳いでる最中、うっかり足でも釣って溺れたりしたら、えらいカッコ悪いですからね。 ただ、何と言っても、こりゃホンモンだぞ、の魅力がある。 これを着用した選手ほとんど全員が、タイムが良くなったわけですから。
"レーザー"でなくたって、それなりに工夫はされてて、説明文には、繊維の編み方で水流がどうのこうのだとか、水の抵抗が小さくなって筋肉がどうのこうのだとか、いかにも、「これを着用すれば、アナタもきっとタイムアップしますよ」的なことが書いて―いや、そこまではゼンゼン書いてないんだけど、ちょっとでもスマートに泳ぎたい人間には、困ったことに「水流」や「抵抗」の文字一つが、そんな具合になんとも魅力的に映っちゃうんですよ。
ワタシは、週一でしかブールに行かないけど、それでも一年も同じのを履いてると、それなりにボロ臭くなってきて、この前はそんな「水流」やら「抵抗」やらで、新しいのを買ったんだけど、はっきり言ってまったく泳ぎなんて変わんない。まあ、当たり前ですけどね、タイムがどうのこうの言う前に、プールの向こう岸に辿り付いて、ハイ満足、ってレベルなんだから。 でも、25メートル泳いだけで、「ダメ、変わんない」と分かっちゃうと、自分のレベルの低さを棚に上げて、こりゃ「水流」にダマされたワイ、と勝手な納得の仕方をする。
でも、そう思うのも、だって無理はないと思いませんか。 たとえば、ダイエット食品。 ―これだけで、二週間に5キロ痩せる。 その手の文句に、思わず衝動買いして、案の定、後になって後悔した、なんて経験のある人はゴマンといるはずで、作り手というかメーカーの謳い文句なんて、所詮消費者に買ってもらうためのものですから、「二週間に5キロ痩せる」の後に、「かもしれない」とか「痩せる、場合もある」なんて言葉は、間違ってもいれない。たまに、テレビの通販で、「効果には個人差があります」という小さな文字が、申し訳程度に画面に載るくらいです。
ですから、水着も似たり寄ったりだと思ってた。 そうしたら、少なくとも、この"レーザー"に限ってはそうじゃない。 北島選手だけじゃなくて、他のAさんも、Bさんも、その他モロモロさんも、これを着るとみんな速くなる。日本新記録がポンポンと出る。で、こりゃホンモンだぞ、ってなるわけ。
そのホンモンの魅力がいいんですよ。企業コマーシャルでなく、みんなの前でちゃんと実証されたっていう、そういう魅力が。 べつに、何がなんでも速く泳ぎたいわけじゃない。ただ、興味があるんです、そういう"ホンモン"に。
そんなわけで、そのうち手に入れたいと思ってます。もうしばらく待って、一般にも"普及"し始めれば、少しは値も落ち着くでしょうし、泳ぎ下手が履いたって不自然でなくなるかも知れません。 それまでは、もうちょっと今の"チョイボロ"ので引っ張りますかね。
2008.3.20
先日、高校の同窓会があって行って来ました。 ホントは、Tと一緒に行くはずだったんですけど、「仕事が抜けられん」とかで、ワタシだけ行く羽目に。 羽目に、と言うのは、実はワタシ、あんまり気乗りしなかったからで、というのも卒業以来、約30年まったく高校とは没交渉状態。
でも、Tが行かないんなら自分も、というのも大人げないし、だいいちそんなことしたら、 「なんだ、お前、俺がいないんで怖気づいたんか」 なんて、Tに言われそうで、じゃしょうがない、行くかってワケです。
我々は、高校創立して十五期目の卒業生で、全員集めれば400人は超えるはずでしたけど、集まったのはせいぜい四十人ほど。 知った顔はいないかと探してると、 「やあ、ゴブサタァ」 と、親しげに声を掛けてくれた人がいます。ところが、ワタシのほうは、その人をとんと思い出せない。 「ああ、こちらこそ御無沙汰しちゃって…」 なんて、無難なことを言いながら、 ―この人、誰? こういうときは、ちょっと焦る。 引きつりそうな顔を、何とか笑顔で誤魔化しながら、超特急で30年前の記憶を探ってみます。 Mとも違う。Uでもない。Kでも、Aでもない。こんな人、同級生にいたか? マズイぞ、これは。
「歯医者になったんだよね?」 「うん、まあ」 そういうことを知ってるからには、ちゃんとワタシのことを覚えてて話してるに違いないのに、こっちは穴の開くほど相手の顔をみても、全然その顔と記憶とが結びつかない。初対面の人に、ちょっとなれなれしく話し掛けられてるような奇妙な感じで、でも、もちろんそんなはずはなく、運悪くこの人の記憶だけが、ストンと忘却の深い穴に落ちてるのは間違いないんです。 ―さあて、困ったぞ。 そう思うと、冷や汗がタラリと出て来ます。 一番最初に、「失礼だけど、オタク、誰だっけ」って正直に聞けばよかったんだけど、知ってるフリをしちゃった以上、もう手遅れ。自力で思い出すしかありません。
「Yも歯医者になったの知ってるだろう。うちのすぐそばで開業しててさ。でも口の中見られるの恥ずかしいから、どうしようかと思ってさ」 彼は屈託のない言い方をして来ます。 「そうかぁ」 適当に相槌を打ちながら、ワタシの頭はフル回転。Yはよく知ってるんだけどなあ、肝心の目の前のこの御仁はさて…? 実際、正式に同窓会が始まれば、まず自己紹介なんてことになるんだろうけど、とてもそれまで場が持ちそうもない。 Tが一緒なら助け舟出してくれたかもしれないけど、生憎こんなときに限ってヤツはいない。
でも、誰だか分からないってのはホントに不便。 何を話題にしていいか分からないから、ただ相手の話にフンフンと頷いてみせるだけで、どうも気分が悪いし落ち着かない。こっちから積極的に話題を提供するなんてこと出来ないから、何となく盛り上がらないしバツが悪い。 そうしてるうちに、Sという、この友人は毎年年賀状に家族と一緒の写真を載せて来るので、滅多に会わないけど顔だけはよく知ってる男がやって来て、 「変わっただろう、Hは―。すぐ分かった?」 正体不明の謎男を横目に見て、Sはワタシに笑い掛けます。 「H?」 Hと言えば、クラスで一番痩せてて華奢で、どちらかといえば無口で大人しく、どこか女性っぽいイメージのある生徒だったはずです。 でも、そこにいる彼は、口ひげを生やし、当時掛けてなかったメガネを掛け、頭は禿げてないもののほとんど白髪になって、猪首で達磨のような体型。 言われてみれば、目元のあたりに当時のHを偲ばせる面影はあるものの、まるで他人。 ―こりゃ分かるワケないワ。
それでも、まあ、やっとこさ正体が判明してこっちも一安心てとこですが、それにしても、昔の友人に会うっていうのは、懐かしくもある反面、エネルギーを使いますね。 思い出そうとあがいたお陰で、ワタシ、自分のエネルギーの90%をそれだけで消費しちゃいましたから、ホントに。
|